ダブルスウィッチ
昼休み――
えみりはいつものように電話の出来るスペースに移動する。
食事をする前に電話をかけるのが習慣になっていた。
同僚の子達は初めは不思議そうに見ていたけれど、今では彼氏に電話してるんだろうと思ってくれてるらしい。
「えみり、先行ってるね?」
「あ、うん、あとでね?」
そんな会話もいつものことだ。
派遣先のこの会社は社食もついているから、昼時にはみんなそこに移動する。
だから誰もいない時間帯を狙って電話をかけていた。
何も話さない電話を不審がられるのも嫌だったし、側で声でもかけられるのも困ると思ったからだ。
派遣社員としてこの会社に来てから、そろそろ2年が経つ。
あと一年すればきっと切られることは間違いない。
派遣で3年経つと直接雇用しなくてはならないと決められているらしく、会社はそれを嫌って3年経つと派遣社員を入れ替えるのが当たり前になっていた。
だからといって、えみりは特にそれに対して不満を持っているわけじゃない。
他の派遣の子はみんな、焦っているみたいだけれど、えみりは違った。