ダブルスウィッチ
誰かに愛されることが歌にも影響するとは思っていなかった。


質のいいセックスは女性を綺麗にさせてくれるのかもしれない。


その証拠に、えみりは以前よりも周りの男性から誘われることが増えていた。


会社の中だけでなく、業界の中でも……


仕事をする上で業界の人との交流は必要不可欠だ。


そういう意味で食事に行ったりすることは、えみりにとって仕事の一貫でもある。


けれど一線を越えることだけは、けしてしなかった。


亮介がそういうことには潔癖だと、これまでの付き合いの中でえみりは心得ていた。


他にいるのならいつでも自分は身を引くと言われたことがある。


確かに誘ったのはえみりからで、彼はそれに乗っただけだ。


自分は奥さんがいるくせにと思わなかった訳じゃないけれど、それでもいいからと誘っただけに、そこはえみりの弱味だった。


だからせめて彼の生活を覗いてみたかった。


奥さんがどんな人なのか、知りたかった。


声だけでわかる訳じゃないけれど、それでも想像するには充分だ。


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