ダブルスウィッチ
今日もいつものようにコール音が止むのを待つ。


だいたい5コールほどで出ることが多かった。


受話器の前でためらっているのかもしれない。


それとも何か家事の途中だろうか?


コール音が止んだとき、えみりはいつものように彼女が名乗るんだとばかり思っていた。


けれど受話器から聞こえてきたのは、いつもとは違うセリフ。


「亮介がいつもお世話になっております」


瞬時に息を呑んだ。


もしかしたらそんな気配を相手は感じ取ったかもしれない。


いつものよそゆきの弱々しい声じゃなくて、強い意思のようなものを感じる。


あなたのことは知ってるんだと言われてるような気がして、えみりは困惑した。


黙ったまま、気配を押し殺すえみりに、相手は臆することなく毅然とした態度で話し続ける。


「ダイヤのネックレスはお気に召しました?」


「――ッ!」


声にならない声が漏れそうになって、えみりは慌てて携帯から顔を外した。


バレてることに驚いて、電話を切ってしまいそうになる。


けれど今切ったら、相手の言うことを認めてることになりそうで、しばらく息を潜めてやり過ごした。


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