ダブルスウィッチ
いつもなら、根負けした彼女が電話を切るはずだった。


けれど今日の彼女はなかなか引かない。


威圧的な空気が流れて、結局根負けしたのはえみりの方だった。


耐えきれずにボタンを押して電話を切った自分を、向こう側で笑ってるんじゃないか?


そう思うと悔しかった。


散々優位に立ってると思っていたのに、あっけなくそれは崩れていく。


彼女に火をつけたのは自分だ。


あの夜、亮介がシャワーを浴びてる間にワイシャツのポケットに潜ませた片方だけのピアス。


たぶん、彼女はそれを見つけたんだろう。


薄々感じていた不安が現実になったとき、彼女は何を思ったのか?


えみりの中でそれは、裏切られたことへの憎悪と悲しみで、亮介とうまくいかなくなればいいと願ってのものだったけれど、実際はそうはいかなかったらしい。


今、電話の向こうの相手からは、はっきりとえみりに対する敵対心が見てとれる。


怒りは亮介には向かなかった。


えみりの方に向いたのだ。


愛人のくせに踏み込んでくるなと、そう言われてる気がした。


しとやかな大人しいイメージだった彼女の声は、有無を言わさぬ強さに変わっている。


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