ダブルスウィッチ
その瞬間、自分が拒否されたのだと彩子は悟った。


向けられた背中からはこれ以上触るなと無言の圧力がかかってる。


伸ばした手が所在なさげに空を浮いていて、彩子はその手をキュッと握った。


虚しかった。


勇気を出した行動はあっけなく拒まれたのだから……


そのままベッドに入る気になれずに、彩子はそっと寝室を抜け出した。


間抜けな格好を隠すように、上から長めのカーディガンを羽織って。


一階に降りてキッチンへ向かう。


白い陶器のようなカウンターに手を置くと、ひんやりとした感触が伝わってきた。


グルリと見回してみても、彩子が選んだものは何一つない。


そんなことはここに住み始めたときからわかりきってる事なのに、急に胸が締め付けられるような寂しさに襲われた。


彩子は結婚してから誰ともコンタクトをとっていない。


実家からも遠ざかっている。


自分の色など何もないこの家で、亮介だけが唯一話せる相手であり、触れられる相手なのだ。


それさえ失ってもなお、この家に留まらざるをえない現実は、彩子にとってあまりにもむごいものだった。


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