ダブルスウィッチ
上で眠る亮介に聞こえないように、必死で声を押し殺しながら彩子は泣いた。


いつだっていろんなことを諦めてきた彩子が、これまで泣くことはほとんどなかった。


溜め込んでいたものが一気に噴き出したようなそんな感覚。


こんな風になるくらいなら、愛人の方がまだましだと彩子は思う。


少なくとも会話もあるだろうし、触れ合うことも出来るのだ。


出来ることなら代わりたい。


あの無言電話の彼女が、妻になりたいと望むなら、そうしてあげたいくらいだ。


ひとしきり泣いたあと、亮介が使っている机に置いてあるパソコンを開いて検索してみる。


『入れ替わる』


目新しい情報は特になく、マウスでスクロールしていくと、入れ替わることの出来る薬という項目を見つけた。


パソコンの青白い光に照らされながら彩子は夢中でそこをクリックする。


『お互いが強く入れ替わりたいと願った場合にのみ、効力を発生させるものである

二粒セットで五万円

使用後、何があっても当社は一切責任を負いません

効果がなかった場合の返金にも応じられません』


怪しい謳い文句も、彩子は目に入らなかった。


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