ダブルスウィッチ
それから彼は初めてニッコリ微笑むと、よろしくと手を差し出した。


しばらく彩子はその意味が分からず、ぼんやりとその手を見つめていた。


スッとその手が引っ込められたとき、思わずすがるような目で彼を見ていた。


握手だったんだという意味に、今さら気付いたから。


彼は特に気にする様子もなく、すでに席を立つところだった。


彩子も慌てて立ち上がると、彼はそれを手で制した。


「あぁ、あなたはゆっくりしていってください

まだ残っているようですし……」


目線は彩子のミルクティーに注がれている。


最後まで飲んでいけと、その目は言っていた。


有無を言わさぬその口調に、彩子はストンと腰をおろした。


駄目だったんだとそう思った。


このお見合いは失敗だったんだと。


さっき、握手を受け入れなかったことが原因かもしれないとも思った。


なにもかも捨てて、この結婚にかけていた彩子にとって、それはあまりにもむごい仕打ちだ


あの誓約書はなんのためだったのだろうと彩子は思う。


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