ダブルスウィッチ
平日の木曜日が固定休だというのもあり、来週の木曜午後一時に待ち合わせすることになった。


森野彩子と名乗った亮介の妻は、出来れば自分の最寄りの駅まで来てほしいと申し訳なさそうに言った。


どうやらあまり遠くに外出することを亮介があまりよく思わないらしい。


えみりは二つ返事でそれを了承し、彩子は加えて駅ビルに入っているアフタヌーンティーを待ち合わせ場所に指定した。


最後まで機嫌良く電話を切った彼女は、えみりに会うことを楽しみにしているように思えた。


えみりはといえば、やはり妻だというだけで多少身構えてしまう。


本当にこれで良かったんだろうかと小さく息を吐きながら、えみりは棚に置いてある観葉植物を見た。


好きだと言ったら、お土産にと亮介が買ってくれたもの。


自分のコレクションに加わったそれはパキラだった。


小さな鉢だけれど、元気に育ってる。


そろそろ植え替えてやらなきゃダメかもしれない。


来週の木曜日は亮介から連絡はあるだろうか?


森野彩子に昼間会ったあとで、もし亮介と夜会うようなことがあれば平静ではいられないかもしれない。


えみりはそんな不安を抱きながら、床に置いてあった霧吹きを手にゆっくりと立ち上がった。


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