ダブルスウィッチ
玄関を出て、腕につけてあるカルティエの時計でもう一度時間を確認する。


家から駅ビルまで、歩いて15分の距離だ。


まだまだ余裕がある。


彩子はゆっくりと閑静な住宅街を歩き始めた。


ふと気になって足を止める。


持っていたバッグの中身を確認して、ホッとした。


これを忘れたら、今日彼女に会う意味がない。


先日取り寄せたカプセルは、薄いベージュのような色をしたよくあるものだ。


本当にこれを飲んで入れ替われるのか疑問だったけれど、今のままなにもしないでいるのも嫌だった。


ダメならダメで、また違う方法を考えればいい。


四つあるカプセルを眺めながら、彩子はこれから起こるかもしれない奇跡を思って、胸が高鳴った。


指定した店は駅ビルの中に入っている紅茶の専門店。


コーヒーよりも紅茶派の彩子はこの店がお気に入りで、たまに一人で来ることもある。


自分のテリトリーに相手を引き込むことで、うまく話を持っていければいいという意図もあった。


約束の時間より15分早くついた彩子は、店員に後からもう一人来ることを伝えて、案内された席に座る。

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