ダブルスウィッチ
ダージリンティーを注文して店員が離れていくと、彩子はキョロキョロと辺りを見回した。


もしかしたらもう来てるかもしれないと思ったからだ。


お互いに顔は知らない。


一応、電話でだいたいの容姿については伝えていたけれど、目印などは特に決めていたわけじゃなかった。


自分を含めて一人で座っている女性は三人。


けれどどの人も、鈴村えみりと名乗ったあの子が彩子に伝えたものとは違っていた。


一人は彩子と同じ年代の女性で、もう一人も20代くらいだけれど小柄な女性だ。


そして最後の一人も背は高そうだが、髪は短くメガネをかけていた。


これから来るのならば、見つけやすいかもしれないと彩子は入り口の方を見つめた。


紅茶はすぐに運ばれてきて、ポットとカップが一体になった白い陶器が彩子の前に置かれる。


ポットを外してカップに紅茶を注ぐと、ダージリンのいい香りがした。


いらっしゃいませと店員の高い声が響く。


客が入ってきたのだとわかって、彩子は慌ててポットから手を離すと顔をあげた。


その瞬間、息を呑んだ。


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