ダブルスウィッチ
「あ……はい、失礼します」


電話とは印象が違っていた。


もっとふてぶてしい態度の子なのかと思っていたけれど、案外印象は悪くない。


それが彩子にとっては悔しいところだった。


人のものに手を出す女なら、もっと嫌なやつであってほしかった。


それこそ嫌いになれるくらいに……


「先になにか頼みますよね?」


メニューを彼女の方に向けながらそういうと、えみりは消え入りそうな声で返事をしたあと、店員を呼び寄せた。


マスカットティーをお願いしますと囁くように頼んだ彼女は、緊張しているのかコホッと小さく咳払いをした。


対面に座る彼女はやはり驚くほど美しく、マスカラもたっぷりとダマになることなく塗られていたし、アイラインもしっかりひかれている。


思わず触れてみたくなるようなぷっくりとした唇は艶かしくて、女の彩子でもドキリとするほどだった。


全てにおいて、どうしても亮介の影がちらつく。


この唇に触れたんだろうか?とか、この胸にこの足にどんな風に触れたのかが、気になって仕方なかった。

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