ダブルスウィッチ
「満足してないからこそ、そういうことで埋めてたんじゃないの?」


「……」


えみりは何も答えなかった。


認めるのが怖いのか、もしくは認めているから黙っているのか、それは彩子にもわからない。


「もし、私とあなたが入れ替われるかもしれないとしたら……」


「……え?」


「あなたなら……どうする?」


えみりは彩子の顔をまじまじと見つめた。


何をいってるのかわからないといった表情で……


「これなんだけど……」


彩子はバッグからおもむろにカプセルの入った袋を取り出す。


他の客から見えないように、そっと手のひらの中に隠しながら。


「二人が同じ時間にこれを飲んで、入れ替わりたいと真剣に望めば、そうなるって……書いてあります」


自分でも何を言ってるんだ?と思いながら、彩子はジッとえみりの目の奥を覗きこんだ。


えみりは信じられないといった表情で、彩子を呆然と見返す。


「……それ、本気で言ってるんですか?」


「本気で言ってます」


「なんの薬かもわからないそれを……私に飲めと?」


逆の立場なら、彩子もそう思ったに違いない。

< 92 / 273 >

この作品をシェア

pagetop