キュンキュンキューン!
ふつーに女装するよっ!

國生リュウイチ(こくしょう りゅういち・十六歳・男)「ハァッ、ハァッ……助けて……」
 教室がいっせいにガヤガヤしだした。
 学生食堂では、先を争って並んでいた男子学生が列を乱した。

 オーバーニーソックスに、ひきしぼられたウエスト、張り出したヒップ。控えめなバスト……。ツインテールに大きなリボン。

 一緒にいるのは音楽教師だ。鼻の下を伸ばしている。手にしているのはフルートのケース。
モブ「なんだコクショー、あれがどうかしたのか?」
コクショー「あれを見ろっ!」
モブ「あれが?」
コクショー「女だっ!」
モブ「それが?」
コクショー「手違いで、女の子が交換留学にっ?」
モブ「ないって」
コクショー「だって、かわいいぞ」
モブ「だっての意味がわからない」
コクショー「なに言ってるんだ、追いかけるぞ!」
モブ「やめとけよ」
コクショー「どうして?」
モブ「一般生徒のおまえは知らないだろうけどな……あれ、トオヤだぜ」
 窓から身を乗り出していた生徒たちが、急にシンとした。
コクショー「男の娘?」
モブ「オカマと言え」
コクショー「いやー、今の時代、それは差別用語だろ?」
モブ「あいつは、近づくやつらはひととおり、くっている」
モブ「残念だったな」
モブ「とりあえず、顔のいろいろな汁を拭けよ」
コクショー「うん……」
 タクトは、友人の姿を、痛ましく思った。
タクト「ちなみに攻めだって。わかる? タチってこと」
コクショー「トオヤって、確か女と付き合ってたよな?」
タクト「場合によっては男もオーケーだって」
コクショー「……」
タクト「鼻血、出てるぞ」
コクショー「オレの青春が……」
モブ「終わったな」
モブ「おわった、おわった」
タクト「みんな! そんな言い方よせよ! こんなの、かわいそうだ! コクショー女に免疫ないんだ。ここは友達として、元気付けてやろうぜ!」
モブ「時代は実力社会なんだ。夢とか言ってる場合じゃない」
タクト「恋することで、何かが変わるかもしれないだろ?」
コクショー「オレのことをわかってくれるのはタクトだけだー!」
タクト「おいおい、もっと周りを見ろって、な?」
ソーマ「コクショー……生きてて本望か?」
 ソーマの声が冷たく響いた。
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