イケメンSPに守られることになったんですが。


煙はもくもくと、私たちの足元に絡み付こうと追いかけてくる。



「なるべく息を吸うな!

催涙弾だ!」



そ、そんなこと言われてもぉぉぉ。


とにかく背広の袖で口を覆ったまま、亮司さんの手を離さないように走る。


やがて亮司さんが侵入してきた窓が見えた。


すると……。



「つかまれ!」


「えっ、わぁぁっ!」



亮司さんが残った最後の体力を振り絞り、私を米俵みたいに抱き上げる。


ど、どうするつもりなの!?



「目と口をを閉じてろ!」



亮司さんはそう言うと、全力で閉じられたままの窓に向かって走る。


あまりの速さに揺さぶられて、めまいがしそうになった瞬間……。


──ダンッ!


亮司さんの大きな靴が思い切り床を蹴り、私を抱いたまま宙に浮いた。


ぶわりと重力に逆らい、私たちは地上から高く離れる。


思わず目を閉じると、次の瞬間……。


──ガシャァァァァン!!


大きな音がして、体が地面に転がった。


亮司さんが私を抱いたまま、ガラスを突き破って脱出したんだ……!


その直後、薄く開けた視界の端に、窓から火と煙が爆音とともに吐き出されるのが見えた。


一瞬でも脱出が遅れたら、あれに巻き込まれていたかもしれない……。


亮司さんは体力の限界だったのか、彼の腕は転がりながら私から離れてしまった。


ひとり地面に投げ出された衝撃で、頭がクラクラする。


それでも私は、離れてしまった亮司さんの手を求めて、無理やりに体を動かす。



「…っ、いた……っ」



体を起こそうとして地面に手をつくと、枯れた草と乾いた土の中にガラスの破片が混じっていて、私の手のひらを刺した。



「……っ……。

そのまま、動かないで……」



近くにいた亮司さんはなんとか起き上がり、体をはたく。


すると、ガラスの破片がぱらぱらと音を立てて落ちた。




< 380 / 438 >

この作品をシェア

pagetop