イケメンSPに守られることになったんですが。


左手の親指の爪を噛む。


考え事をする時の癖だ。


とても格好の悪いことであると私も自覚しているのだが、そもそも無意識なのが癖というものなので、なかなかやめられない。


スマホの画面を凝視したまま、駅までの道を急ぐ。


1年近く通った道だ。目をつむってても歩ける。


そんな傲慢な思い込みが間違いだった。



「ぶっ!!」



顔面に、思いがけない衝撃が走る。


まばたきをすると、男もののコートが視界に映った。



「す……っ」



すみませんと言って、何歩かあとずさる。


そのはずだったのに。



「!?」



私は、言葉を失った。


ぶつかった男の左腕が、背中に回ったのだ。


まるで、抱きしめるように。



何……!?もしかして変態!?


顔を胸に押し付けられて、周りも見えない。声も出せない。


ぞっと、背中が恐怖で震える。


まだ持っていたスマホをコートのポケットにしまい、抵抗しようとした。


その時だった。




< 5 / 438 >

この作品をシェア

pagetop