キスの意味を知った日
「松本」


いきなり名前を呼ばれて、心臓が痛いくらい跳ね上がった。

声のした方を見ると、櫻井さんがデスクのすぐ側にいた。


「ちょっと来い」


そして、業務的にそう言った後、隣の会議室に入って行った。








「何があった」


櫻井さんの後に続いて小さな会議室に入ると、机に軽く腰かけた櫻井さんが真剣な顔でそう言った。

その言葉に俯いていた顔を上げる。


「え?」

「今の電話。お前、普通じゃなかっただろ」


そう言われて、思わず手に力が入る。

見てたんだ。


「話せ」


言葉はキツイけど、言い方は私の心を落ち着かせるような優しい言い方だった。

その言葉を聞いて、心を落ち着かせるように一度大きく息を吐く。

そして、今にも震えそうな声に力を入れて口を開いた。


「――男の人が。その……」


勇気を出して話し出したはいいけど、いったいどう説明すればいいんだ。

真剣に私の言葉を待つ櫻井さんの顔も真っ直ぐ見れない。
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