キスの意味を知った日
助け
「んん~。よく寝た」
そう言いながら、固まった体を天井に向かって伸ばす。
ここ最近、寝不足だった事もあり、横になって少し休むつもりがグッスリと寝てしまった。
時計を見ると、夜の10時半。
いつもなら、まだ職場にいる時間なのに、と思いながら小さく溜息を吐いた。
――…あの、イタズラ電話事件から一週間が過ぎた。
ここ最近は、定時ピッタリに櫻井さんより強制帰宅命令が出ているから、帰宅時間は驚くほど速い。
必然的に少しづつ仕事が溜まってきているから、持ち帰れる仕事は家に持ち込んでいる。
「あ~あ。なんだかなぁ……」
それでも、家で仕事をするにも限界があり、モヤモヤした日々を送っている。
本当は以前のように終電ギリギリまで働いて、達成感に浸りながら帰宅したいのに――。
そんな事を思いながら、冷蔵庫からキンキンに冷えたビールを取り出す。
こんな気持ちの時は、飲むに限る。
ハァっと大きく溜息を吐きながら徐にベランダに出ると、綺麗な満月が夜空に輝いていた。
「ぷはぁ――――っ!!」
カラカラの喉にビールを流し込むと、無意識にオッサンの様な声を出してしまった。
やっぱり、嫌な事があった時はこれに限る。
酔ってしまえば、何もかも忘れられる。
そう思っていると。
「お前はオッサンか」
静かだった世界に、突然そんな声が響いた。