キスの意味を知った日
◇
「落ち着いたか?」
「少し」
結局あの後、声を上げて永遠と泣いてしまった私。
まさか上司の前、いや……人前であんなに泣いたのは、自分でも驚きだった。
でも、何故か櫻井さんの前では自分を隠さずにいられる。
心が落ちつく。
泣いている間、ずっと優しく背中を撫でてくれていた彼は、いつもの上司の『櫻井さん』ではなく、初めて会った時の『駆』のように感じた。
その姿に、甘えてしまっていいだろうか。
ぐっと拳を握って、ゆっくりと隣に座る櫻井さんを見つめる。
そして。
「1つだけ、我儘を言ってもいいですか……」
消えそうな私の声を聞いて、あぁ。と言って首を傾げた櫻井さん。
その姿に向かって言う勇気はなく、再び顔を伏せて口を開いた。
「今日……あの……泊まっても……いいですか?」
大胆というか、非常識な事を言っているのは分かっている。
実際これを言うのも、カナリ躊躇った。
でも、今1人になるのは怖い。
部屋の中に1人でいるなんて、耐えられなかった。
最初は美咲を呼ぼうかと思ったけど、この事件を誰かに知られたくなかったし、話したくもなかった。