キスの意味を知った日
じっとりした目で私を見た後、大きく背伸びをして、ボーっとソファに座っている櫻井さん。
まるで、まだ夢の中のように、薄ら揺れている。
予想通り。
寝起きが悪い。
しばらく夢と現実の狭間を彷徨っていた櫻井さんだけど、ゆっくり立ち上がってコーヒーメーカーをセットしにキッチンへ向かった。
きっと、これが彼の毎日の習慣なんだろう。
無言でそれをセットしてから、何も言わずに部屋から出て行った。
彼がリビングから去った後も、そのまま床に座り込んで外の景色を見ていた。
櫻井さんも、まだ頭が働いてないのか特に何かを言う訳でもない。
それをいい事に、朝焼けの空をぼんやりと見つめていた。
なんだか、穏やかすぎて不思議な感覚に陥る。
昨日あった出来事が嘘のように、晴れやかな空。
気持ちと相反する景色に、心が置いてきぼりになった気分だった。
それからしばらく姿を見せなかった櫻井さんだけど、急に髪をぐっしょり濡らして現れた。
どうやらシャワーを浴びてきたようだ。
さすがに、もう目は開いている。