キスの意味を知った日

何度目かの溜息を吐いて、カチカチになった肩をトントンと叩く。

そんな私の姿を見て、櫻井さんは小さく笑った。


「どっか飯でも行くか? どうせ、何も食べてないんだろ」

「ほ、本当ですか!?」

「俺も腹減ったとこ」


不敵に笑った櫻井さんの言葉に、何度も頷く。

もう空腹で倒れそうだったから。

昨日あんな事があったのに、ちゃんとお腹は空くのだと可笑しくなる。

でも、櫻井さんのおかげで、パーティー中はその事を忘れる事ができたし、いい刺激になった。



近くにあった居酒屋に迷わず入る。

飲んでいいぞ。と言われたから、お言葉に甘えて飲むことにした。


「櫻井さんは飲まないんですか?」


運ばれてきたビールを片手に、目の前でウーロン茶を飲む櫻井さんに問う。

せっかくなら飲めばいいのに。

そう思って、首を傾げると。


「俺が飲んだら、どうやって帰るんだよ」


サラッと言われて、あぁ。と思った。

櫻井さん、車だった。

ここからマンションまでは結構な距離もあるし、代行というわけにはいかない。

そうだった。

うっかりしてた。


申し訳なく思いながらも、遠慮せずにグビグビとビールを飲み続ける。

それからは、終始仕事の話題も耐える事なく食事は進んだ。
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