キスの意味を知った日

しばらくボーっと眼下に広がる景色を見ていたけど、ふと近くにあった木のベンチを見つけて腰を下ろす。

目の前に広がる宝石達は、まるで動いているかのように瞬いている。


「綺麗」

「次は彼氏にでも連れてきてもらえよ」


ふーっと勢いよく煙を吐いて、呟いた私にそう言った櫻井さん。

その懐かしい匂いが胸に染みる。

思い出が心の中に蘇る。

酒の勢いもあり、思った事がそのまま口をついて出る。


「彼氏は作る気ないんです」


キッパリとそう言った私をじっと見つめ、吸っていた煙草を携帯灰皿に押し付ける彼。

その姿を一瞥して、再び夜景に目を移した。


「それ前から思ってたんだけど、なんで?」


再びポケットに両手を入れて、櫻井さんはストンと私の隣に腰を下ろした。

その瞬間、再び香る煙草の匂い。

その匂いが、私の心をゆっくりと掻き乱す。
< 158 / 353 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop