キスの意味を知った日
しばらくボーっと眼下に広がる景色を見ていたけど、ふと近くにあった木のベンチを見つけて腰を下ろす。
目の前に広がる宝石達は、まるで動いているかのように瞬いている。
「綺麗」
「次は彼氏にでも連れてきてもらえよ」
ふーっと勢いよく煙を吐いて、呟いた私にそう言った櫻井さん。
その懐かしい匂いが胸に染みる。
思い出が心の中に蘇る。
酒の勢いもあり、思った事がそのまま口をついて出る。
「彼氏は作る気ないんです」
キッパリとそう言った私をじっと見つめ、吸っていた煙草を携帯灰皿に押し付ける彼。
その姿を一瞥して、再び夜景に目を移した。
「それ前から思ってたんだけど、なんで?」
再びポケットに両手を入れて、櫻井さんはストンと私の隣に腰を下ろした。
その瞬間、再び香る煙草の匂い。
その匂いが、私の心をゆっくりと掻き乱す。