キスの意味を知った日

「その時、仲良く彼のマンションから出てきた1人の女の人がいました」

「――」

「別れ際に、ご丁寧にキスまで」


あの時、私の時間は止まったのかもしれない。

心が壊れたのかもしれない。


「その浮気相手、私の友達だったんです」


自嘲気に笑ったけど、ちゃんと笑えていたか分からない。

何も言わない櫻井さんは、ただ私をじっと見つめた。


「一番、親友だと思っていた友達だったんです」


そう。

幸せそうに彼の隣で笑っていたのは。

私の友達だった。


「妊娠4ヵ月。信じられます? いつしか、私が浮気相手になってたんです。笑っちゃいますよね」


私の前で真実を口にした時、彼は彼女を庇った。

私の友人も、彼を庇った。

まるで、私だけ蚊帳の外。

邪魔者だった。


永遠を誓った彼氏と、心から何でも話せた友人。

2つを一瞬にして失った。

涙なんて出なかった。


「ずっとずっと裏切られてたんです。影で私の事笑ってたんです」


許せなかった。

ずっと私を騙してた2人も。

幸せだと思っていた私も。
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