キスの意味を知った日


「やめろ」


力任せに殴り続ける私を見て、櫻井さんが静かに言う。

でも、止まらない。

暴走しだした心は、もう止まらない。


「大嫌いっ!! 大っ嫌いっ!!」


ガンガンと何度も何度も、叩いた。

壊れてしまえばいいと思った。

こんな弱い私、壊れてしまえと。


涙で前が見えない。

頭が真っ白で、理性が効かない。


「やめろっ!」


そんな時、世界の端で声が弾けた。

腕を大きく振り上げた時、ガシっと腕を掴まれる。

ハッとして顔を上げると、振り上げた私の手首を掴んだ櫻井さんが、真っ直ぐに私を見つめていた。

その視線を、真正面から睨みつける。


「離してっ!」


振り払おうとしても、強く握られた手はびくともしない。

声を荒げる私とは正反対に、酷く冷静な顔をした櫻井さんは表情一つ変えずに私を見つめた。

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