キスの意味を知った日

「あのっ! る、瑠香さん、ですよね?」


朝礼が終わって、席に戻ろうとした時、突然そう話しかけられた。

思わず足を止めて、振り返る。

すると、そこには先程自己紹介していたフレッシュピチピチな23歳の『日向』がいた。

先程同様、朝日に負けないくらい輝く瞳で私を見つめている。


っていうか、瑠香?

今、瑠香って言ったよね?


「そうだけど。どうしたの?」


一瞬疑問が湧いたけど、流した。

ニッコリと笑って、日向に向き直る。

すると、今にもその場で飛び跳ねそうな勢いの日向が、前のめりになって言葉を続けた。


「あ、あの! 梨恵さんから、また飲もうね! って伝言預かってきました」

「梨恵から?」

「あの、私関西支社にいた時、梨恵さんにお世話になって! こっちに出向が決まった時に、梨恵さんに同期がいるからって聞いて」

「あ~。なるほどね」

「あの、よ、よ、よろしくお願いします!」


そう言って、ニッコリ笑いながら深々と頭を下げた日向。

その頬には笑窪まである。


どこか不器用ながらも、真っ直ぐなその姿勢と笑顔に思わず笑ってしまう。

美咲の言ってた通り、可愛い子だ。

だけど、私の思っているような子じゃないと思う。

素直で、真っ直ぐな子だ。
< 194 / 353 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop