キスの意味を知った日
目的の階でエレベーターを降りて、大きなフロアを進む。
何列にも綺麗に整えられたデスクが並ぶ。
まだ空席が目立つこの時間――。
「おはよ」
「あ、瑠香」
私に気づき、おはようと続ける同期の美咲。
「なんか疲れてない?」
「う~ん……週末だからね、昨日も帰り遅かったし」
というか、さっきまでここにいた。
シャワーする為に帰ったようなもんだ。
というのは、わざわざ言わない。
努力しているのを誰かに知られるのが、なんだか嫌だ。
「そっか~……じゃぁ今日も残業するの?」
「昨日でだいたい片付いたし、今日は早めに帰るよ……どしたの?」
あきらか何か言いたそうな美咲。
直す必要のない綺麗にセットされたボブの髪の毛をしきりに触っている。