キスの意味を知った日

「日向とは関西支社で一緒だったんですよね?」

「ん? あぁ。部署は違ったけどな」

「久しぶりに会って、何か変わってました?」

「どうだろうな。でも、あの頃よりはいい営業マンになったよ」


そう言って、どこか懐かしむ様に空を見上げる櫻井さん。

その横顔を見て、またモヤモヤと心の中が黒いもので覆われる。

さっきの感情が、また芽を出す。


「珍しいですね。櫻井さんが人を褒めるなんて」

「ん? そうか? そうでもないだろ」


いや。

私の記憶では初めてだ。


モヤモヤしたものが大きくなっていく。

心の奥が締め付けられて、苦しくなる。


これ以上聞かなければいいのに、それでも私の口は止まらない。

知りたいと、思ってしまう。

この人が何を考えて、何を思っているのか。

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