キスの意味を知った日
なんなんだろう、このやり場のないイライラは。
発狂しそうな、このモヤモヤとした感情は。
本当は、この人が上司じゃなかったら、胸倉を掴んで揺さぶりたい気分だ。
あんたは、部下だったら誰にでも優しいのか! って。
私が部下じゃなかったら、今までどうしてたんだ! って。
だけど、そんな事出来るはずもなく、悔し紛れに隠れて地団駄を踏んでいると。
「あ~そうだ」
不意に、気怠そうにそう話し出した櫻井さん。
その言葉を聞いて、睨みつける様に隣を向くと。
「純の奴が連絡来ないって嘆いてたぞ」
「――」
「暇あったら連絡してやれよ」
そう言って、櫻井さんは煙草を咥えながら私の方に視線を向けた。
その言葉に、頭の中で糸がプツンと切れた。
暇があったら。
連絡してやれよ?
なんで、櫻井さんにそんな事言われなきゃいけないのよ!
っていうか、なんでそれを櫻井さんがわざわざ私に言うのよ!
「わかりましたよ!!」
イライラがMAXになって、煙草を吸う櫻井さんに大声でそう言う。
もはや、火山噴火直前だ。
いや、噴火した。
捨て台詞にそう言って、ドタドタと部屋の中に入る。
これ見よがしにバンっと勢いよく扉を閉めて、近くにあったクッションを投げ捨てた。
「あぁぁぁっ、もうっ!!」
イライラが爆破して、狂ったように地面をのたうち回る。
一体何なのよ! あぁ、もう、腹立つ!
怒り狂ったまま、ドスドスと足音を立てて冷蔵庫を開ける。
そして、残っていた缶ビールを全部取り出して、一気に煽った。
「櫻井さんのバカやろうっ!!」
――その日は、永遠に飲み続けたのは言うまでもない。