キスの意味を知った日
「私も初めは迷ったよ」
「本当ですかっ!? 私もともと方向音痴で、東京は路線も多いし、おまけに携帯の地図アプリもちんぷんかんぷんで。もう……自分が今どこにいるのやらでパニックに」
そう言って、恥ずかしそうに笑う日向。
よほど必死だったのか、その額には汗が滲んでいて髪が僅かにへばりついている。
息も上がっている事から、きっと走ってきたんだろう。
やっぱり、憎めない子だなと思って笑う。
「しばらくすれば慣れるよ。それよりもう帰れるの?」
「あ! はい。帰れます!」
私の言葉を聞いて、シャキっと背筋を伸ばした日向は、バタバタとデスクに戻って書類を片付け始めた。
その様子を櫻井さんと2人で見つめた。
「用意できたか?」
「はっ、はい! お待たせしました」
帰るタイミングを逃した私は。
結局この3人でフロアを出るハメになった。