キスの意味を知った日


「お疲れ様でした!」


ニッコリ笑って手を振る日向に、後ろめたい気持ちになる。

ニコニコ笑っているくせに、腹の中ではモヤモヤと黒いものを漂わせているなんて。


あの子は、真っ直ぐで一生懸命で、どこまでも正直だ。

私にはないものを沢山持っている日向は、正直羨ましかった。


「可愛いですね。日向」


大通りに戻り、車を走らせている櫻井さんにボソっとそう言う。

すると、煙草をふかしながら、櫻井さんは苦笑いを浮かべた。


「まだ、子供だろ」


その言葉に、え~、と思う。

でもまぁ、もうすぐ30歳でキャリアのある櫻井さんから見れば、この前働き出したばっかりの23歳の女の子なんて、子供みたいなモノなのかもしれない。


「でも、きっと大きくなりますよ。あの子は」


あぁいう子はきっと大きく成長する。

人に愛される子は、そういう風になるって相場は決まっている。

おまけに、要領さえ掴めば、あの子は大きな戦力になる。

まだ仕事に慣れていなくて失敗する事が多いけど、その素質は十分にある。

あの素直で真っ直ぐな姿勢は、営業には向いている。

そう言った私を横目で見て「へぇ」と柔らかい笑みを浮かべる櫻井さん。


「分かってるじゃん」


そう言って、満足そうに笑って煙草を咥えた。
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