キスの意味を知った日

その表情を横目に見る。

なんでだろ、苦しい。

その笑顔が日向に向けたものだと思うと、苦しくて堪らない。


「これから俺達で育てていかなきゃな。若い人材は会社の宝だから」

「――そう……ですね」


そんな嬉しそうな顔で話さないでよ。

大切みたいに言わないでよ。

特別みたいに言わないでよ。


ムクムクと大きくなる、この気持ち。

自分でも制御できなくて、歯痒くなる。

イライラしすぎて泣きそうだ。

そんな時――。


「あ、先週言い忘れたんだけど」

「なんでしょう」


思い出したようにそう言って、徐に胸元のポケットからメモ紙を取り出した櫻井さん。

視線をその真っ白な一枚の紙に向ける。
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