キスの意味を知った日

「瑠香~日向~、温泉街の方に行ってみよ~」


ウキウキ顔で駆け寄ってきた美咲に笑顔を返す。

なんだかんだ言いつつも、どこか楽しんでいる自分がいる。

社員旅行ではあるけど、温泉なんて久しぶりだし、基本旅行は大好きな私。

温泉なんて、大好物だ。


「うん、行く行く。――って、あれ? 日向?」


さっきまで横にいた日向がいない事に気づいて声を上げる。

キョロキョロと周りを見渡していると、ロビーの奥の方で1人周りをキョロキョロと見回している日向を見つけた。


「どしたの? 何か探し物?」

「あ! 瑠香さん! あ、えっと、あの……櫻井さんはどこ行くのかなぁ~って思って」


そう言って、頬を染めながらモジモジする日向。

その姿を見て、ピンとくる。


なるほど。

あわよくば、櫻井さんと一緒に周ろうと考えていたのか。

日向らしい。


――でも。


「櫻井さんなら、もう部屋に入ったんじゃない?」


こんな、みんなで仲良く観光。っていうタイプじゃない櫻井さん。

間違いなく、もうチェックインして部屋に入っているだろう。


そう言うと、そうなんですか。としょんぼりする日向。

まるで捨て犬みたいなその姿を見て、思わず頭を撫でたくなる。

今の私には、日向の行動力を見習いたい。


純粋で。

真っ直ぐで。

素直な日向を――。
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