キスの意味を知った日

ドクっと太鼓のように鳴った心臓が痛い。

足が地面に縫い付けられた様に動かない。

ここにいちゃいけないと分かっているのに、離れる事ができない。

すると。


「好きです!」


波の音に混ざって、日向の声が辺りに響く。

その声を聞いて、前を向いていた櫻井さんの視線が日向に向いた。

暗闇の中に浮かび上がる2人の姿を食い入る様に見つめる。


時間を忘れてしまったかのように、その場に立ち尽くす。

視線の先には、真っ直ぐにベンチに座る櫻井さんを見つめる日向の姿。

緊張しているのか、ギュッと浴衣の裾を握っている。


ドクドクと心臓が早鐘のように鳴る。

だけど、このドキドキは、隠れて見ている緊張か、この告白の結果になのかは分からなかった。

ただただ、食い入るように2人の姿を見つめる。


そんな時、沈黙を破って何かを話し出した櫻井さん。

だけど、その声は波の音にかき消されて聞こえない。


ちょっと、何?

何喋ってるの?

聞きたいけど、これ以上近づけない!


歯痒い気持ちになりながら、必死に声を拾おうと耳を澄ます。

それでも、それまで立ち尽くしていた日向が、突然ペコっとお辞儀をして踵を返した。

そして、パタパタと足音を立てながら、ホテルに入って行った。

その姿を目で追いながら、オロオロと立ち尽くす。


なに!?

どうなったの!?


声がうまく聞き取れなかったから、どういう状況か分からない。

でも、今の場面を見る限り。

――断られた?


その事に、どこか安堵している自分がいる。

それでも、ようやく我に返って、この現状の悪さを自覚する。

こんな所で聞き耳立てていたなんて知られたらマズイ。

そうと分かって、慌ててこの場を後にしようとした、その時――。
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