キスの意味を知った日
「あぁいうの?」
「実際、どこまで聞こえた」
「え、え~っと……好きです、とは聞こえました……」
「そ」
「あの、苦手というのは?」
「――付き合って下さいってやつ」
そう言って、深くベンチの背に体を預けた櫻井さん。
苦笑いを含んだまま、そう言って息を吐いた。
その言葉を聞いて、苦い気持ちになる。
やっぱり告白されてたんだと思って。
だけど、その事実を聞いたと同時に、ピンとくる。
だから日向、お酒飲まなかったんだ。
酒を飲んで告白なんて、ありえない。
もともと、今日告白するつもりだったんだ。
モヤモヤした気持ちが再び大きくなって、拳を握る。
辺りが暗くて良かった。
きっと、私今、可愛くない顔してる。
だから、逃げるように笑い話に変える。
「慣れてるのかと思いました」
「慣れてる?」
「関西支社から、こっちに移るって決まった時、毎日告白されてたって聞きましたから」
私のその言葉を聞いて、櫻井さんの顔がみるみるうちに般若のようになる。
誰に聞いた。と不機嫌な顔で聞き返されたけど、濁しておいた。
言ったら梨恵に殺されそうだと思ったから。
言葉を濁した私を睨みつけていた櫻井さんだけど、諦めたように再び煙草に火を点けた。
そして、暗闇の中に真っ白な雲を作って声を落とした。
「やめたんだ。そういうの」
「――え?」
唐突に言われたその言葉に、思考が一瞬停止する。
言葉の意味が理解出来ずに首を傾げた。