キスの意味を知った日


「誕生日……おめでとうございます」


どうにか彼を引き留めたくて、そんな事を言う。

すると、櫻井さんは不思議そうな顔して首を傾げた。


「ん? あぁ。さっきも聞いたけど」


そう言って、少しだけ苦笑いを浮かべた。

それでも。


「サンキュ」


そう言って、私の頭にポンっと手を乗せた櫻井さん。

温かい手が私の体温を上げる。

ぎゅっと噛んだ唇が震えている。


私はこの時、どんな顔をしていたんだろう。

柔らかく笑う彼の顔を見て、理性が一気に飛んだように思う。


顔を上げて、じっと彼の目を見つめると、答える様に見つめ返してくる温かい瞳。

それでも、少し困ったように微笑む櫻井さんの顔を見て涙が出そうだった。


それと同時に、欲しくなった。

彼の全てが欲しくなった。


あぁ。

私も所詮は女なんだ。

我慢なんてできるはずないんだ。


欲しい。

彼の全てが欲しい。

その笑顔も、瞳も、何もかも、私だけに向けてほしい。



一度外れてしまったストッパーは、もう戻らない。
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