キスの意味を知った日
仕事場でも、その態度は変わらなかった。
今まで通り。
部下として私に接する櫻井さん。
その様子に、どこかモヤモヤしたものを感じる。
でも今思えば、初めて櫻井さんに会った時。
私が男の人に簡単にキスを許した所を櫻井さんは見ている。
もしかしたら、私は彼の中で『そういう女』になっているのかもしれない。
誰にでも見境なくキスをする尻軽女だって。
でも、あのキスは違う。
櫻井さんにしたあのキスは、今までとは違う。
そう弁解しても、今更遅いのだけれど。
気持ちを捨てると決めたはずなのに、どこか尾を引いている。
忘れようとすればするほど、心が不具合を起こす。
そんな不安定な自分が嫌だった。
◇
「瑠香なんか荒れてるね」
焼酎をグイグイ飲む私を見て、美咲がポツリとそんな事を言う。
その言葉に、素っ気無く言葉を落とす。
「最近変えた化粧水合わなくて」
「誰が肌って言った」
淡々と答える私を訝しげな顔で見る美咲。
眉間に皺を寄せて、バッサリと私の言葉をぶった切った。