キスの意味を知った日


仕事場でも、その態度は変わらなかった。

今まで通り。

部下として私に接する櫻井さん。

その様子に、どこかモヤモヤしたものを感じる。


でも今思えば、初めて櫻井さんに会った時。

私が男の人に簡単にキスを許した所を櫻井さんは見ている。

もしかしたら、私は彼の中で『そういう女』になっているのかもしれない。

誰にでも見境なくキスをする尻軽女だって。


でも、あのキスは違う。

櫻井さんにしたあのキスは、今までとは違う。

そう弁解しても、今更遅いのだけれど。


気持ちを捨てると決めたはずなのに、どこか尾を引いている。

忘れようとすればするほど、心が不具合を起こす。

そんな不安定な自分が嫌だった。







「瑠香なんか荒れてるね」


焼酎をグイグイ飲む私を見て、美咲がポツリとそんな事を言う。

その言葉に、素っ気無く言葉を落とす。


「最近変えた化粧水合わなくて」

「誰が肌って言った」


淡々と答える私を訝しげな顔で見る美咲。

眉間に皺を寄せて、バッサリと私の言葉をぶった切った。
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