キスの意味を知った日

目的地に着いて、その病院を見上げる。

こじんまりとした、アットホームな病院。

個人的に大学病院の様に規模のデカイ所よりも、こちらのほうが親近感が湧いて好きだ。

患者さんとの距離も近いし、本当に親身になってくれる医者が多い。


それから、簡単に挨拶を終えて、病院を出た。

思っていた通り、感じのいい病院だった。

腕時計を見れば、もう2時過ぎ。

ランチを取り損ねたから、適当に何か買って食べようと思って顔を上げた。

その時――。


「瑠香ちゃん?」


突然後ろから名前を呼ばれて、反射的に振り返る。

振り向いた先にいたのは、グレーのスーツを綺麗に着こなした男の人。

少し驚いたように目を見開いていたけど、私の顔を見た瞬間ニッコリと笑った。


一瞬誰だか分からなかったけど、その笑顔が記憶の中の人物と一致する。

その瞬間、振り返った事を酷く後悔した。

会いたくない人ランキングに入る、人。




「――純……さん」
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