キスの意味を知った日


「久しぶり~!」


そう言って、ニコニコした顔で近づいてくる純さんに愛想笑いを浮かべる。

間違いなく引きつっているだろうけど。


「お久しぶりです」


連絡してと、言われて無視していた手前、なんだか気まづい。

妙に他人行儀な言葉が出てくる。


「ビックリした~! まさか、こんな偶然会うとはね」

「本当ですね」

「え、なに、仕事?」

「はい」

「医療器具関係の仕事だったけ?」

「よく覚えてますね」

「当たり前じゃん~。瑠香ちゃんの事は全部覚えてるよ~」

「純さんは、どうしてここに?」


相変わらず軽いノリをスルーして会話を続ける。

病院から出てきたという事は、どこか悪いんだろうか。

チラリと病院の方に視線を向けた私を見て、純さんは一瞬目を瞬いた。

それでも、次の瞬間、再びニコニコと笑って口を開いた。

そして。


「あぁ、ここ俺ん家の病院」


驚く事を言った。
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