キスの意味を知った日
その言葉を聞いて、ポカンと口を開けて固まる。
きっと、間抜けな顔をしていたんだろう。
私の顔を見て、純さんは声を殺して笑った。
◇
「純さん、お医者さんだったんですね」
小さなカフェで運ばれてきたコーヒーに口をつける。
視線を前に向ければ、コーヒーにミルクを入れた純さんがクルクルとスプーンでそれを混ぜていた。
「意外だった?」
「いえ、世も末だなと思って」
「瑠香ちゃん、相変わらず当たり強い~」
こんな軽いノリの人が医者なんて、本当世も末だ。
私なら、絶対この人の診療を受けたくない。
だけど、医者という事はもちろん頭もいいという事になる。
今は馬鹿な事を言っているけど、本当はメチャクチャしっかりしている人なのかも。
なんだか、少しだけ純さんのイメージが変わった。
あれから、少しお茶しようと誘われて半ば強引にここに連れてこられた。
適当に断る事もできたけど、新しい担当の病院のご子息だ。
下手に断れない。
きっと、純さんも私が断れないのを知って誘ったとしか思えない。
そう思うと、やはり頭の回転は速いのかもしれない。