キスの意味を知った日
「本当に医者なんですか」

「本当だって~。ちゃんと医師免許も持ってるし。今日は学会の帰り~」


尚も疑う私をケラケラと笑う純さん。

前に居酒屋で会った時と違って、スーツを着ているからか少し印象が違う。

おまけに学会とか聞くと、更にイメージが変わってくる。


一見、フラフラしてる人に見える純さん。

こんな固い仕事しているとは思わなかった。


「まぁ。あの病院は俺の父親がやってる病院だけど――」

「だけど?」

「跡取りは兄貴」


そう言って、意地悪そうに笑ってコーヒーを飲む純さん。

その言葉に、苦虫を噛み潰した気持ちになる。


――ハメられた。


ご子息だから、その後院長か何かになった時、お世話になると思い渋々だがお茶に付き合っているのに、跡取りは兄貴かい。

だったら、最早この人に付き合う理由はない。

私の初めの魂胆も全てお見通しで、その上でハメてきたんだ。

やっぱり、くせ者だ。


一気に居心地が悪くなって、小さく溜息をついた。

ご子息だから、いずれは院長になるのかと思って邪険にしなかったのに。


あからさまにテンションの落ちた私を見て、ケラケラ笑った純さん。

そして、じっと私を見つめて口を開いた。


「連絡待ってたのに」

「すいません。仕事が忙しかったので」

「あ、そうだ。駆から伝言もらった?」

「……はい」


突然出てきた櫻井さんの名前に、体がピクッと反応した。

だけど、それを悟られまいと平静を装ってコーヒーに口をつける。
< 269 / 353 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop