キスの意味を知った日

この人といるとマズイ。

心に覆いかぶせている厚い布を、全部剥がされてしまいそうだ。

私の心の奥の奥まで見破って、丸裸にされる。


脳がカタカタと彼のデータをインプットした所で一度息を吐く。

そして、すっかり冷えてしまったコーヒーを飲み干して伝票を手に取った。


「仕事中なので、これで失礼します」


一度お辞儀をしてから、足元に置いてあったカバンを持ち上げる。

そして、足早に店を出ようと踵を返した。

その時。


「駆は結構手強いでしょ?」


踵を返して足を一歩前に出した私の後ろで、そんな声がした。

思わず振り返ると、含みのある笑顔で私を見つめている純さんと目が合う。


「どういう事ですか?」


思わず、聞き返していた。

櫻井さんに関する事だからか、聞き流せなかった。


そんな私を見て、更に口角を上げた純さん。

面白いというように笑って、私をじっと見つめた。
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