キスの意味を知った日

「瑠香ちゃんは、少なからずアイツに興味がある。違う?」

「さぁ、どうでしょう?」

「興味がない事は基本聞き流すでしょ、瑠香ちゃん」

「――」

「わざわざ足を止めて、聞き返してきたって事は、そういう事」

「――」

「あいつがどうして、恋愛を遠ざけているか興味ない?」


その言葉に、ドクンと心臓が一度大きく打つ。

何一つ言い返せない私を、真っ直ぐに見つめる鷹のような瞳。

まるで、獲物を追い詰めるように、私から視線を外す事はない。


「興味、ない?」


悪魔の様に私を誘惑する彼の言葉。

まるで魔法にかかったように、その場から動く事ができない。


櫻井さんが恋愛を遠ざけている理由?

そんなの、興味ないわけないじゃない。

知りたくて知りたくて、堪らない。


だけど、それを聞いて私はどうなる?

気持ちに蓋をしようと決めたのに?


グルグルと思考が渦のように回る。

純さんの言葉が、私の脳内に何度もリピートされる。

口車に乗せられてはいけない。


そうは思うのに。

いつの間にか私の足は、彼に向かって進んでいた――。
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