キスの意味を知った日


◇◇


「お待たせしました」


そう言って現れた私を見て、純さんはニッコリと笑った。

昼間見たスーツ姿のままだけど、その雰囲気はさっきよりもオフモードに近い。


「お疲れ様」


そう言って、わざわざ椅子をひいてくれる。

仕事を早めに切り上げて携帯を開くと、純さんからお店のHPが張り付けてあるメールが届いていた。

結局、彼の言葉巧みな話術に負けて、今ここにいる。


「何か飲む? 帰り送っていくよ」

「いえ。遠慮しておきます」


下心丸出しの誘いを、一刀両断する。

話を聞いたら、すぐ帰るつもりだ。


昼間はかけていなかった、お洒落な眼鏡をかけた、モダンな感じの純さん。

エキゾチックな照明に照らされた彼は、どこか怪しい雰囲気で満ちていた

相変わらず軽そうな事に変わりはないけど、きっと仕事をすればカナリのやり手だろう。


櫻井さんは、人の美点を見抜く人。

彼は、人の弱点を見抜く人。

そんな気がした。
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