キスの意味を知った日


「初めて会った時は、全く恋愛なんて興味なさそうだったのにね」


運ばれてきたワインを美味しそうに飲みながら、そう言った純さん。

その探る様な瞳に、思わず目を逸らした。


「まぁ、駆は女を惚れさせる天才だからね。無意識なのが憎いよね」

「――」

「あの優しさは罪だって、何度か言ったんだけどな」


確かに。

櫻井さんは、女の人を惚れさせる天才なのかもしれない。

素っ気無いようで、誰よりも優しくて。

不器用ながらも、どこまでも親身だ。


彼にとっては普通な行動も、女にとっては『特別』に思える。

自分は彼の特別なんじゃないかと錯覚する。

自分が女なんだと思わせてくれる。


「櫻井さんに何かあったんですか?」


どこか優雅にワインを飲む純さんにそう言う。

世間話をするつもりはない。


どこか強い私の声に、緩やかに視線が私に向けられる。

その真っ直ぐな瞳に、ゴクリと唾を飲んだ。


「いや。瑠香ちゃんが思ってるような悲劇みたいな出来事はないよ」

「――」

「ただ」


そう言って、一度言葉を切った純さん。

そして、少し顔を歪めて笑った。


「不器用なんだよ。あいつは」

「不器用?」

「そ。それが原因」


そう言って、ニタっと笑う純さん。

その言葉の真意が掴めなくて、眉根を寄せる。


不器用が原因?

どういう事?
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