キスの意味を知った日



「真面目に答えて下さい」

「俺はずっと真面目だけど?」


飄々と話す純さんを思いきり睨みつける。

そんな私の視線に気づいた彼が、悪びれた様子もなく笑った後、一度ワインを口に運び深く息を吐いた。


それが、会話の始まりの合図だった。


「不器用だっていうのは、本当。瑠香ちゃんも見てれば分かるでしょ」

「……まぁ」

「実際アイツもあの性格と容姿だから、昔からモテたよ。普通に彼女作って、浮気とかもしなかった」


語られる、大学時代の櫻井さん。

その姿を想像して、口を閉ざした。


「ただ、瑠香ちゃんも感づいてると思うけど、アイツ、自分のテリトリーみたいなの持ってるじゃん? そんで、その中に絶対人は入れない」


純さんの言葉にコクンと頷く。

彼の言う通り、彼は自分の領域を作っている。

そして、その中には人を決して入れたりしない。

きっと入ってきた人は、自分の中から切り捨てるだろう。


それは、ずっと感じていた彼と私の間の壁。

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