キスの意味を知った日


「私、櫻井さんに助けてもらったんです。もう一度、恋しようって思えたんです」


気が付いたら、そう叫んでた。

この人に、こんな事話すつもりなんて無かったのに。

それでも、言わずにはいられなかった。


私と同じように、一人で苦しんでいるかもしれない櫻井さん。

だったら、目を瞑る事なんてできない。

お節介かもしれないけど、力になりたい。


どこか悔しくて、勢いよくテーブルに置かれた水を喉に流し込む。

すると、目の前に座っていた純さんが、可笑しそうにクスクス笑った。


「いい顔してるね」

「はい?」


訳の分からない事を言いだした純さんに、噛みつくように言葉を落とす。

睨みつける私を楽しそうに見つめる彼を見て、心底腹が立った。

だけど、そんな私の姿さえも面白いといった表情で、純さんは頬杖をついて私を見つめる。


「いいよ、その顔。この前よりずっといい――……でも」

「――」

「人の心を動かすほど、難しい事はないよ」


そう言って、真剣な顔で私を見つめた。
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