キスの意味を知った日
静かにそう言って、ポケットから煙草を取り出した純さん。
そして、慣れた手つきで煙草に火を点けた。
「アイツは強情だからな。誰かに何か言われてコロッと考えを変えるような奴じゃないよ」
「そんなの、やってみなきゃ分からないです」
なんだか私には無理だって言われている様で腹が立って、強気な言葉がでた。
そんな自信、どこにも無かったけど。
すると、一瞬目を見開いた純さんだけど、次の瞬間ケラケラとお腹を抱えて笑い出した。
酷く場違いなその姿を、眉間に皺を寄せて睨みつける。
すると、瞼の縁に溜まった涙を人差し指で拭った純さんが口を開いた。
「駆の事好きなんだ?」
唐突にそう聞いてくる純さんの声に、一瞬体が動きを止める。
何を考えてるか分からない表情だ。
どこか探る様に、私の瞳をじっと見つめてくる。
でも、ここで引いたら負けだと思った。
どうせ、この人には私の心なんて初めから筒抜けなんだから。
それに、なんだか負けたくない。
この人にだけは。
「好きです」
真っ直ぐに彼の瞳を見て、そう言った。
私も、純さんも、一言も発さずに、ただお互い見つめ合う。
すると、静寂を破る様に、ふーっと溜息のように煙を天井に向けて吐き出した純さん。
片方の唇を持ち上げて、笑っている。