キスの意味を知った日
弱気になった私を何も言わずに見つめる純さん。
それでも、深い溜息の後、ゆっくりと組んでいた足を戻して口を開いた。
「瑠香ちゃんなら変えられると思うんだけどな」
「どうして、そう思うんですか」
この人のこの自信はどこからくるのだろう。
人の心を動かすのは難しい。と、あれだけ言っておいて。
私の言葉を聞いて、少し目を細めて私を見た純さん。
そして、優しく笑って口を開いた。
「同じ辛さを知っている人間は、相手が何を望んでいるか分かるから。瑠香ちゃんはそれを知っている」
「同じ、辛さ……」
「だから、俺は瑠香ちゃんに駆の過去を話した。瑠香ちゃんなら、アイツの事変えてくれると思ったから」
「――」
「瑠香ちゃんには、アイツの気持ち誰よりも分かってやれると思う。それに、その芯の通った心、きっとアイツに響く。だから、話した」
その言葉に、涙を流したあの日の事が甦る。
必死で誰かの暖かさを求めた――あの日を。
寂しさを知っている人は、温かさも知っている。
闇を知る人は、光も知っている。
私が彼を、櫻井さんを変えられる?
同じ辛さを知っているから、本当に欲しいものが分かる?
私が、本当に欲しいのは『人の暖かさ』
愛だった。
遠ざければ遠ざける程、欲しいと願った。
いつか思った事がある。
彼と私は似ているって。
きっと、それは根本にある考えが同じだったから。
恋愛によって、人生が変わった事があったから。