キスの意味を知った日


あの後、直ぐに救急車が来た。

真っ暗な世界の中に、赤いランプがクルクルと回っている。


泣き叫びながら櫻井さんの名前を何度も呼んだけど、その瞳は開く事はなかった。

襲い掛かってくる恐怖に我を忘れる。

そんな私を宥めるように、救急隊員の人が私の背中を撫でた。

そして、急いで担架に乗せられた櫻井さんは救急車に乗って運ばれていった。


捨てられたように地面に落ちていた櫻井さんのスーツを見つけて、勢いよく抱きしめる。

だけど、生暖かいソレは赤黒く光っていて、ゾクリと背筋を舐めた。

恐る恐る手を広げると、手の平は真っ赤に染まっていた。


―――真っ赤な血……。


ドクドクと心臓が太鼓のように鳴りだす。

胸が苦しい。

眩暈が止まらない。

耳鳴りがする。


櫻井さんは。

どこ?
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