キスの意味を知った日

記憶が鮮明になってきた瞬間、体が震えだす。

ガタガタと制御できなくなって、自分の体を強く抱きしめた。

そして、恐る恐る自分の掌を広げる。

そこに見えたのは、真っ赤な。

真っ赤な――…。


「失礼しますよ」


ドクンと心臓が跳ねたと同時に病室のドアが開いて、白衣を着た男の人と、さっきの看護婦が入ってきた。

その姿を見た途端、弾ける様に声を出す。


「あのっ!?  櫻井さんはっ!? 一緒に運ばれてきた人はっ!?」

「落ち着いて。大丈夫だから」

「大丈夫って!?」

「言葉のままですよ。大丈夫。松本さんよりケガは酷かったけど、出血の割には傷も浅かった」

「本当……に?」

「えぇ。まだ眠っていますけど、じきに目が覚めるでしょう」


優しい言葉でそう言って、ニッコリと笑う男性。

そして、今にもベットから飛び掛からんばかりだった私を、そっとベットに戻した。

肩に置かれた手の重みに逆らう事なく、そのままベットに埋まる。


大丈夫……?

傷も浅かった……?

じき、目も覚める?


その言葉を聞いて、風船の空気が抜けたみたいにシュルシュルと力が抜けた。

それと同時に安堵感が胸を覆って、一気に涙が込み上げる。


よかった。

よかった――。




神様。
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