キスの意味を知った日


「俺の側にいてほしい。俺が――お前を守る」


静かな部屋に響く、櫻井さんの低い声。

瞳を揺らす私を、真っ直ぐに見つめている。


優しく私の頬に添えられた手が温かい。

温かいその手に、また涙が溢れた。


「これが俺の伝えたかった事」


そう言って、優しく微笑んだ櫻井さん。

その瞬間、弾けるように彼の胸に飛び込んだ。


あぁ、これは夢なんだろうか。

でも――。

夢なら覚めないで。


「私も、櫻井さんの側にいたいっ」


彼の側にいたい。

彼の笑顔をもっと見ていたい。

彼を幸せにしたい。


私をギュッと抱きしめるその腕が愛おしい。

優しく、私の髪を撫でるその手が愛おしい。

あなたの全てが愛おしい。


ひとしきり抱きしめ合った後、ゆっくりお互い離れてその瞳を見つめ合う。

目の前には、今まで見た事ないほど優しい表情の彼がいた。


私の乱れた髪を、優しく耳にかけてくれる大きな手。

そしてそれと同時に、顔を傾けて彼の唇が私の唇と重なった。
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